Flying Bath

寒い季節のお風呂は一段と気持ちいい。周りは熱すぎだというけど、私は熱めのお湯が好き。

湯気の立ち上る湯をひと掬いして、指から零れてゆく柔らかな水の質感をたしかめる。たまにじっとして、できるだけ波を立てないようにもする。水面に指で模様を描きたいから。


静かな水面に模様を描く。消えてしまうと分かっているけれど、描きたいんだ。


模様を留めたくてもういちど描いてみても、消えてゆく。


消えるなと叱って、もう一度描いてみた。


水は、いうことをきいてくれない。


音もまた、奏でたそばから流れてゆく。


一曲の流れの中で幾刹那もの創造と消失を通過するとき、寂寥に胸は締めつけられる。


ふと目をおとした水面に

いつか死ぬと分かっていながら生きている

私の顔が映った


人の身体の6割は水だといわれている

人間は固体というより液体に近い


液体である私たちの音楽も、自ずと流れてゆくんだ


すっかり忘れていた

自分が流れてゆく存在そのものだってことを



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